空中秘密基地 2

映画や本の感想が中心です。当然ですが僕の主観と偏見で書いてます?

たとえやり尽くされたものでも

『サウスポー』(監督:アントン・フークア 2015 / アメリカ 124分)

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【あらすじ】
怒りをエネルギーに相手を倒すというスタイルでボクシング世界チャンピオンにまで上り詰めたビリー・ホープ。しかし、自身が起こした乱闘騒ぎの結果、妻を死なせてしまい、さらにはボクサーライセンスまで剥奪されてしまう。失意のどん底にあったビリーだったが、プロの世界から引退していたトレーナー、ディックの元を訪れ、過去の自分と向き合いながら、再びリングへ上がる道を模索していく。(映画.comより)

アントン・フークア監督が大好きなんですよ。だらしなかったり、悲しい過去を背負っていたりするマイナス面も含めた男の渋さや哀愁を描かせたら右に出る者はいない。デンゼル・ワシントンがアカデミー主演男優賞を受賞した『トレーニング・デイ』。イーサン・ホーク主演、リチャード・ギアの情けない警官役が最高だった『クロッシング』。またまたデンゼル・ワシントンと組んだ最強の「舐めてたあいつが…映画」である『イコライザー』などなど目をつむればすぐに思い出される作品ばかりです。

そしてこの『サウスポー』。主演がジェレク・ギレンホールで、フォレスト・ウィテカーレイチェル・マクアダムスが脇を固める。これで期待するなって方が無理ですよ。

で、どうだったか?って言うとですねー……エンドロールが終わって劇場が明るくなった時は、正直なところ、ちょっと物足りないな〜、お前もっと出来るだろ?って感じだったですよ。でも家に帰りながらこの作品のことを考えていると、あ〜ジワジワと語りたいことが溢れだしてくるような作品だった…と思えてきたんです。

再起と再生のドラマ。今まで何百回と観てきた話です。でも役者陣の真摯な演技がその「いつか観た話」を越えさせてくれる。主演であるジェレク・ギレンホールの役者としての幅に目をみはる。『ナイトクローラー』ではよくわからないクズだったけど、今作ではもっと直球にダメな人を演じていて、しっくりきていた。試合中の狂気に満ちた目やラストシーンの表情も絶妙です。子役のオオーナ・ローレンスも良かったし、フォレスト・ウィテカーも安定の上手さだ。

そして何よりもレイチェル・マクアダムス!ビッチかと思わせておいて、実は本当にしっかり者の妻を演じている。前半の約30分しかスクリーンに登場しないけど、物語を進めていくのは、彼女の存在(不在?)だ。今一番好きな女優さん。作品によって様々な役を演じているけど、表情が豊かで、無邪気な笑顔が素敵だってことは共通している‼︎ 『スポットライト 世紀のスクープ』『アバウト・タイム』etc…彼女の出演作は全部観て欲しいです。

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劇中で悲しいシーンをサラリと流したり、盛り上がりそうなシーンをカットすることが何度もあった。最初はこれが物足りなかったんだけど、考えるにつれ、これって意図的なんじゃないか?って思うようになった。全部を描くのは野暮ってもんでしょ!ってことをフークア監督は狙ったんじゃないかと。これはバランスを間違えれば、ただの「物足りなさ」になる。チャレンジだなぁ〜。アントン・フークアがますます好きになった。

結局のところ、この作品が大好きなんですよ。確かにやり尽くされた物語です。でもたとえやり尽くされていても、本気でまたやるのはカッコいい!そう思わせてくれる映画でした。もう上映が終わっちゃう劇場が多いみたい。映画館へ急げ!