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空中秘密基地 2

映画や本の感想が中心です。当然ですが僕の主観と偏見で書いてます😁

故郷は遠くにありて

映画

『ブルックリン』(監督:ジョン・クローリー / アイルランド・イギリス  112分)

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【あらすじ】
大人しく目立たない性格の少女エイリシュ(シアーシャ・ローナン)は、妹の将来を案じた姉の勧めで、アイルランドの小さな町からニューヨークへとやってくる。それまでとはあまりに異なる大都会での生活に戸惑うエイリシュは、しかし、イタリア系移民の青年トミーとの恋をきっかけに大きく変わっていく。洗練されたニューヨーカーとして生き生きと日々を過ごすエイリシュだったが、そんな彼女のもとに故郷からある悲報がもたらされる。(映画.comより)

決して派手ではないけど、どのシーンにも愛おしさを感じずにはいられない映画でしたよ。そして間違いなくシアーシャ・ローナンの映画だった。人生を丸ごと受け入れて進んでいくヒロインがかっこいい。彼女が節目ごとで見せる表情ひとつひとつが忘れられない。

色彩の豊かさが印象的。アイルランドの田舎から、ニューヨークの華やかな世界へ。主人公は最初は緑色の服ばかり着ているんだけど、次第に様々な色の服を着るようになる。これは故郷(緑はアイルランドの色だ)に心を寄せていたヒロインが、広い世界を知り、いろんな価値観を知っていく過程を描いている。内面と色の変容が巧みに同調していて、観客は彼女に感情移入せずにはいられない。

映画を観ている間ずっと、30年前に東京に出てきた時のことを思い出していた。何もないと感じていた地元から新しい自分を求めて上京する。東京に慣れて地元意識が薄れる中、ふと地元に帰ると何とも言えない思いを抱く。確かに久しぶりの故郷は優しく居心地がいい。でも僕たちは忘れているのだ。故郷を離れるにのは離れるだけの理由があったことを。複雑な感情。変わらない地元と変わった自分。その対比が懐かしく、切ない。ヒロインが言う「忘れていたわ。この街はそうだった」というセリフが胸をぎゅっと掴む。

ヒロインがクリスマスにボランティアをしている教会のシーンも忘れがたい。教会に来るのはアイルランド系のホームレスの人たち。彼らは1900年代初めに移民して来て、土木工事に従事し道路や橋、高層ビルを造った。劇中で神父様が言うように「いまのアメリカの豊かさっていうものを作ったのは彼らなんだ」。しかしそれらを全部建設し終わると、居場所がなくなり、社会ら受け入れてもらえなくなる。これって今と同じじゃない?そんな彼らが歌うのが、アイルランドの詩人であるW.B.イェイツが書いている有名な民謡の「縄ない」。本編を観ているときは、聞いたこともないアイルランド語だし、字幕も出ないので、何を言っているのかはわからないけど、気持ちは伝わってきた。ヒロインと一緒に涙しそうになった。

『ブルックリン』は、僕にとって、とてもパーソナルな作品だったけど、移民の話とかちゃんと今日的な視点も忘れていない素敵な映画でした。人生は選択の連続だよ。