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空中秘密基地 2

映画や本の感想が中心です。当然ですが僕の主観と偏見で書いてます😁

Rock’n Roll is a risk. You risk being ridiculed!

『シング・ストリート 未来へのうた』(監督:ジョン・カーニー / アイルランド 106分)

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【あらすじ】
大不況にあえぐ85年のアイルランド、ダブリン。14歳の少年コナーは、父親が失業したために荒れた公立校に転校させられてしまう。さらに家では両親のケンカが絶えず、家庭は崩壊の危機に陥っていた。最悪な日々を送るコナーにとって唯一の楽しみは、音楽マニアの兄と一緒に隣国ロンドンのミュージックビデオをテレビで見ること。そんなある日、街で見かけた少女ラフィナの大人びた魅力に心を奪われたコナーは、自分のバンドのPVに出演しないかとラフィナを誘ってしまう。慌ててバンドを結成したコナーは、ロンドンの音楽シーンを驚かせるPVを作るべく猛特訓を開始するが……。(映画.comより)

ONCE ダブリンの街角で』(2007)、『はじまりのうた』(2013)に続くジョン・カーニー監督の新作。『はじまりのうた』は僕の生涯ベスト10に入る作品だったので、期待値を目いっぱい上げて映画館に行ったのです。あまりにもツボすぎて、ドハマリしてしまいました!

この作品は監督のジョン・カーニーの伝記的な話なんだけど、ジョン・カーニーさんや主人公は僕とほぼ同世代。主人公が1985年に15歳だから、僕は1歳上の16でしたね〜。今でこそ昔からザ・バンドとかビーチ・ボーイズとかフォーシーズンズetc…とかを聴いてたような顔をしてるけど、始まりはデュラン・デュランだったりする訳です。当時はちょうどMTVとかが流行りだした頃で、映画の中でも主人公の兄弟がデュラン・デュランRio」がかかるとテレビの前に飛んでくるというシーンがあるのですが、僕もまさにあんな感じだったよなぁ〜と記憶が蘇ってきたりして、「あ〜これは僕の話だ」ってなってしまったのでありますよ。

ONCE ダブリンの街角で』と『はじまりのうた』では主人公がちゃんとスキルのあるミュージシャンだったんだけど、『シング・ストリート』では主人公たちは全員がティーンエイジャーでほぼゼロからバンドを始める。この設定がとても良い。アマチュアであるが故に初期衝動から音楽へと向かう喜びがとらえられている。彼らがバンドとして音を出す瞬間、作品全体が瑞々しく、新鮮さに満ちたものとしてスクリーンに現れてくる。こういうシーンを描かせたらジョン・カーニーという監督は本当に上手い。『はじまりのうた』では、グレタ(キーラ・ナイトレイ)がライブハウスで弾き語りで歌い出すと、たまたまそこに居合わせた落ちぶれたプロデューサーのダンマーク・ラファロ)には様々な楽器が重なって聴こえる(見える)。


『シング・ストリート』では「UP」という曲を作る時、最初は主人公のコナーといろんな楽器が弾けるエイモンの二人で作り始めるんだけど、カメラが動いていくと、「ここでキーボードを入れたらいいね」ってところでキーボードの黒人の男の子がいたりして、時間もいつの間にか夜から昼に変わっていてバンドの演奏になっている。音がだんだんと分厚くなっていく高揚感がたまらなく心地よいのです。

コナーが新しいミュージシャンを知ると、すぐそれ風の曲を作ったり、ファッションを真似る展開も最高ですよ。だって10代ってそういうものでしょ!そもそもバンドの最初のオリジナル曲「The Riddle of the Model(モデルの謎)」はモロにデュラン・デュランというかニュー・ロマンティック・ブームの影響を受けてるしね。MVも「初心者が頑張って作ったみたいだけど、センスもあって面白い」というバランスが上手い!と思っちゃいますよ。

「Drive It Like You Stole It」はこの映画の中でいちばん好きな曲。これだってホール・アンド・オーツの「Maneater」を聴いて、すぐに「Maneater」風のビートとベースで曲を作ってる。この軽いところが微笑ましい。

このシーンは、コナーの思い描く理想と現実のギャップがハッキリと示されるシーンで、この作品のクライマックスのひとつ。音楽が流れている間は世界は調和に満ちているんだけど、音楽が終わると同時に、主人公は現実へと引き戻されてしまう。この理想と現実の乖離というモチーフは、この作品の底を一貫して流れているもので、それこそラストシーンも含めて、ただの前途洋々たるハッピーエンド……なのか?っていうところに落とし込んでいるあたりが、ジョン・カーニーは絶妙だな!って思うのです。

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バンドのメンバーを演じているのは演技初経験の人が多かったり、有名な役者さんは一人も出ていない。そんなキャスティングの中でも特に印象に残ったのはコナーのお兄さん役のジャック・レイナーさんでしたよ。彼がお母さんの背中を見つめて語るシーンとか、「どんなことでも天職さ」と言うシーンは本当に良かったですね。お兄ちゃんはコナーの全てを肯定してロンドンへ送り出してくれる。時代は違うけど同じアイルランドを舞台にした『ブルックリン』でもお姉さんはありったけの愛情を注いで妹をニュー・ヨークに送り出す。末っ子ってのは自由なものだけど、それを支えてくれる人がいるんですよね〜。僕だって'80UKロックを聴くようになったのは、姉弟のように育った従姉妹に付き合ってMTVを観てたからだったことを思い出したりして、しみじみしちゃいましたよ。

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ナイーブな少年が成長する物語であり、社会的に不遇な立場にある少年少女たちがポジティブにあがく話。ジョン・カーニー監督はそういうストーリーを音楽のプラスの面を信じて、積極的なものとして描いていく。彼は音楽を両手で持つ人だなぁ〜と思うのです。

間違いなく『シング・ストリート』は音楽を題材にした青春映画の新しい傑作として記憶される作品です。登場人物たちの将来は必ずしも明るいばかりのものではないかもしれない。でもかってそうであった者として、僕は彼らを全力で肯定したい。

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