世界の有り様を描くということ〜1月のレヴュー〜
1月のレヴュー。基準はいつものように主観と偏見だけ。
『パラサイト 半地下の家族』
『万引き家族』(監督:是枝裕和)、『わたしは、ダニエル・ブレイク』(監督:ケン・ローチ)など、格差をテーマにした映画が世界中で撮られているのは決して偶然ではない(それだけじゃなくて、ケン・ローチ監督は引退を撤回してまで『家族を想うとき』を撮った。いや撮らざるを得なかった。『パラサイト 半地下の家族』はそれらと並ぶ強烈な、現代社会への異議申し立ての一本だ。セリフ回しやシチュエーションなどコメディ調で物語は進むけど、底辺にはずっと不穏な雰囲気が漂っている。人物や建物、坂道をどのようにスクリーンの中に配置するか?によって、言葉に頼らず物語を紡ぐのは、まさにポン・ジュノ監督作としか言いようがありません。ぜひとも映画館で!
各国版のポスター。
イタリア版が一番スタイリッシュかな。
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☆☆☆…観ないと後悔しますよ!
☆☆……ちょっと時間があるって時にどうぞ
☆………観なくていいかも
◎は旧作
『国家が破産する日』☆☆
→2007年の通貨危機によってIMFの支配下に置かれた韓国。その事態を招いたことの責任を誰も取ろうとしない。ツケは全て市民に回ってくる。これが明日の日本じゃないと誰が言うことが出来るだろうか?自らの暗部にもしっかり目を向ける。韓国映画は今年も熱い。
『マニカルニカ ジャーンシーの女王』☆☆
→「インド大反乱」の女性指導者マニカルニカの生涯を描いた作品。踊りと歌は少なめのインド映画。知らないことばかりでした。戦闘シーンの迫力は流石です。
『パラサイト 半地下の家族』☆☆☆
→何はなくとも観なくてはならない作品。
『フォード vs フェラーリ』☆☆☆
→これこそThe American Movie!汗とオイル、スパナとボルト…出てくるもの全てが愛おしい。史実を知らなくても、車に興味がなくても、絶対にこの映画は楽しめる。
『テッド・バンディ』☆☆
→「劇場型シリアルキラー」とも言えるテッド・バンディを殺されなかった女性側の視点から描いている。ゴア描写は控えめ。そのためテッド・バンディ事件の全貌は把握しづらい。それはいくつかのドキュメンタリーを観れば良いかな。
『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』☆☆☆
→寒い日にはロマンティック・コメディを観るのに限る。下ネタ満載だけど、しっかり現代社会への風刺も効いている物語の着地が心地よい、シャーリーズ・セロン姐さんはどんな役でも最高だ!
『M / 村西とおる 狂熱の日々 完全版』☆☆
→この人の人生を描く時にNetflixの『全裸監督』はまだまだ序の口ですよ。人でなしだとは思うけど、目が離せない。他人の人生は近くにいると悲劇だけど、遠くにいると喜劇だ。
『男はつらいよ お帰り寅さん』☆☆
→「お帰りゴクミ」という映画だった。それでも2020年にスクリーンで寅さんを観られるというのは、得難いことだと言わざるを得ない。
『リチャード・ジュエル』☆
→クリント・イーストウッドらしい手堅い作品だけど、劇中の女性記者の描き方はこの作品のテーマを揺るがしかねないもので、そこには承服しかねる。
『ラストレター』☆☆☆
→岩井俊二の近作の中では最も情緒的。風景の描写が美しい。高校生の時に好きだったあの子はどうしてるだろう?……と思ってしまいましたよ。
『mellow メロウ』☆☆☆
→ちゃんと自分の気持ちを伝えるのは大切ことだ。全ての登場人物が幸せになって欲しい。
→何よりもテリー・ギリアム積年の思いがこうやって映画になったことを寿ぎたい。でも、それがコレか……?という言葉が頭をよぎるのも事実です。観る人を選ぶ作品だ。アダム・ドライバーの演技の引き出しの多さに拍手。ジョアンナ・リベイロという女優さんの名前は覚えておいてください。
『ジョジョ・ラビット』☆☆☆
→登場人物の全てが愛おしい。序盤からある人の靴を何度も見せるんだけど、その意味がわかった時に涙が止まらなかった。スカーレット・ヨハンソンとサム・ロックウェルが素敵で素敵で素敵すぎます。一人でもたくさんの人に観て欲しい。
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2月はアカデミー賞でもいくつもの部門でノミネートされている『1917 命をかけた伝令』に注目。全編がワンカットで撮られているということで、いったいどんな映像になっているのか楽しみです。こういう映画こそ劇場で観なくてはならないのだ。
と同時に今年のゴールデン・ラズベリー賞で9部門(⁉︎)にノミネートされている『キャッツ』を観るかどうかで逡巡してます。試写で観た時はなんだか言いようがない気持ち悪さを感じたんだけど、映画館の大スクリーンと大音量で観ると印象が変わるのかな?
でも一番楽しみにしているのは、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー ダイナミック完全版』。世界公開版も最高だったけど、さらに胸熱なシーンが追加されているらしい。内臓がちぎれるくらい期待している。
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【おまけ】
2020年(第92回)アカデミー賞の予想です。今回は既に日本で公開されている作品が多い。それだけに思い入れが強くなって、かえって予想が難しい。
作品賞
『パラサイト 半地下の家族』
監督賞
『パラサイト 半地下の家族』
主演男優賞
『ジョーカー』
主演女優賞
『マリッジ・ストーリー』
ブラッド・ピット
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『マリッジ・ストーリー』
ポン・ジュノ、ハン・ジンウォン
『パラサイト 半地下の家族』
脚色賞
アンソニー・マクカーテン
『2人のローマ教皇』
『パラサイト 半地下の家族』は国際映画賞(外国語映画賞)と合わせて4冠と予想。でも作品賞・監督賞は『1917 命をかけた伝令』が強いかな?主演女優賞も下馬評通りレネー・ゼルウィガー(『ジュディ 虹の彼方に』)だろうけど、スカーレット・ヨハンソンが好きなんだからしょうがないでしょ!さてどうなりますことやら。