空中秘密基地 2

映画や本の感想が中心です。当然ですが僕の主観と偏見で書いてます?

星屑たちの戦い

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(監督:ギャレス・エドワーズ / アメリカ 133分)

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【あらすじ】
帝国軍の誇る究極兵器デス・スターによって、銀河は混乱と恐怖にさらされていた。窃盗、暴行、書類偽造などの悪事を重ねてきたジン(フェリシティ・ジョーンズ)は反乱軍に加わり、あるミッションを下される。それはデス・スターの設計図を奪うという、困難かつ無謀なものであった。彼女を筆頭に、キャシアン(ディエゴ・ルナ)、チアルート(ドニー・イェン)、ベイズチアン・ウェン)、ボーティー(リズ・アーメッド)といったメンバーで極秘部隊ローグ・ワンが結成され、ミッションが始動するが……。(シネマトゥデイより)

今回はネタバレ全開で書いてます。まさかいないとは思いますが、まだ観てない!という人はココまでです。

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もう少し。まさかコイツに涙するとは思わなかった。

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最初に『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を作るって聞いたときは、いわゆるナンバリングされた正伝ではなくて、これまで概要だけは語られていたけど映像化はされていなかった物語(外伝)だという話だったんだけど、完成した本作は思ってた以上にep4の直前まで描かれていて、まさにSTAR WARS ep3.9という感じでしたよ。

ep1からep7までがスカイウォーカー家を中心とする「フォースを持つ者達」の物語であったとすれば、この『ローグ・ワン』は持たざる者達の物語です。

映画館でこの作品を観た時、はっきり言っちゃいますけど前半は退屈でした。同じようなところを行ったり来たりして話が進まない。こういうチーム物の作品って、最初はバラバラだった奴らがどうやって一体になっていくのか?ってところが楽しみの一つじゃないですか。でもローグ・ワンの連中が「よし!やっれやろう‼︎」となるまでの高揚する場面が描かれない。いつの間にかみんなで乗り込みことになっている。これじゃ面白くないですよね。だから終盤に仲間が次々と死んでいくのにイマイチ響かないのです。例えばジンの父親であるゲイレンが死ぬシーンでソウ・ゲレラの死を絡ませたりしたら、そしてそれがチーム感を出すキッカケになっていたとしたら、もっと物語に推進力がついたんじゃないかな?と思ったりもします。あんなんじゃフォレスト・ウィテカーの無駄遣いだよ。そういう展開だったら「七人モノ」映画としてももっとちゃんと成立していたんだけどね。(「七人モノ」については、『マグニフィセント・セブン』の時に詳しく)ローグ・ワンのそれぞれのメンバーがホントに個性的で素晴らしかっただけに残念です。

ドニー・イェン兄貴は言うまでもなく、「反乱軍の汚れ仕事をやらされていた男」キャシアン、「帝国軍を裏切ったパイロット」ボーティー、「チアルートと仲良し」ベイズ。良かったですね〜。フェリシティ・ジョーンズも同時期に公開されていた『インフェルノ』より何倍もイキイキしてるように感じましたよ。そして何よりもK-2SO!もうコイツのことが大好きですよ。

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こんな具合で前半は微妙だなと思ってはいたのですが、そうした欠点を補って余るほど後半の盛り上がりは素晴らしい。空中戦と地上戦が交錯する終盤はまさに手に汗握るって感じの大興奮でしたよ。AT-ATに味方がやられそうになった時、横からXウィングが助けに飛んでくる。スクリーに向かってガッツポーズをしそうになった。いや、ホントにしていたかもしれません。

前半と後半でどうしてこんなにも違う感じになったのか?もうオフィシャルになっていることなので書きますけど、本作は全体の40%の部分が再撮影されているのです。つまり興奮した後半の戦闘シーンは、ほぼ再撮影されてるんですね〜。だから特報やメイキングにあったシーンの多くが本編でなくなっていたりもしてます。当初ギャレス・エドワーズが撮ってたやつでは主人公達は生き残ることになってたりするらしいけど、ディズニーの幹部が観た最初の『ローグ・ワン』は本当につまんなかったみたいです。で再撮影を監督したのは脚本としてクレジットされているトニー・ギルロイ。こういう話を聞くとアメリカのエンタメ界は厳しいと思うね〜。今回はそれで正解だったと思います。

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まぁ、そんな裏の話は横に置いとくとして、僕たちがスクリーンで観ている『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』、STAR WARSシリーズの中でも傑作と言って良いのではないかと思っています。何よりもデス・スターの怖さとダース・ベイダーの禍々しさを復権させたこと。これだけでも『ローグ・ワン』には価値がある。ただ「STAR WARSシリーズとはデス・スターダース・ベイダーだ」ということも再認識させてくれた訳で、ep8とep9にはまたまた重い宿題が出たな…と思わざるを得ないのです。

あと本作で「チアルートってカッコいいな!」と思った人たちが、ドニー・イェン兄貴のファンになって、続々とシネマート新宿とか新宿武蔵野館に足を運んでくれるようになったら……と心から願うのですよ。

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2016年ベスト10 & ワースト3

2016年のベスト10 & ワースト3、そして各部門賞です。僕の独断と偏見以外の何物でもありません。「俺の、私のベスト10と違う!」と言われても困ります。クレームその他は受け付けません‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎ (タイトルの後ろに◯印が付いている作品は、ソフト化されているものです。テレビに飽きたら、ぜひどうぞ!)

【ベスト10】
第10位 『アイアムアヒーロー』◯
「日本映画にしては……」という枕詞は必要なく、世界基準のゾンビ映画でありました。笑えるところと怖いところのバランスが絶妙。続編を期待。

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第9位 『ちはやふる』 上の句・下の句◯
青春映画として今年公開された作品の中では頭ひとつ抜きん出ていたんじゃないだろうか?「上の句」で必要以上に広瀬すず演じる主人公に焦点を当てなかったことが「下の句」で物語を加速させた。

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第8位 『サウルの息子』◯
クローズアップと手持ちカメラの映像が緊張感を嫌が応にも増していく。そして真に残酷なことは見られない。2016年必見の映画。

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第7位 『クリーピー 偽りの殺人』◯
日常の出来事の中で、ふとしたきっかけで見えてくる違和感。それを表出させるのが黒沢清という監督だ。怖いんだけどスクリーンから目を離すことができない。

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第6位 『ハドソン川の奇跡』◯
「品がある映画」とは、こういう映画のことです。

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第5位 『葛城事件』
ある意味で2016年の日本を描いている作品。「◯◯らしさ」っていうのは「呪い」なのだと思う。

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第4位 『シン・ゴジラ
9.11を経験してスピルバーグは『宇宙戦争』を撮り、3.11の「刺激」で庵野秀明は『シン・ゴジラ』を作った。

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ベスト3の前に、惜しくもベスト10に入らなかった作品です。「これがベスト10だ!」という人がいても強く同意する素晴らしい作品たちです。
『シング・ストリート 未来へのうた』
『ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー』
君の名は。
『オデッセイ』◯
ヘイトフル・エイト』◯
『何者』
デッドプール』◯
『ケンとカズ』
『SHARING』
『イット・フォローズ』◯etc……。

第3位 『海よりもまだ深く』◯
劇中のセリフがことごとく僕の胸に突き刺さり、今年の映画の中で最も主人公に感情移入してしまいましたよ。

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第1位 『ブルックリン』◯

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第1位 『この世界の片隅に

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第1位は同点で2本です。どうしても順位をつけることが出来ませんでした。『ブルックリン』を観て、18歳の時にひとりで東京に出て来た自分を思い出した。ヒロインの「忘れていたわ。この街はそうだった」というセリフは、2016年に最も胸をつかまれた言葉だった。『この世界の片隅に』は今後10年、20年、いや100年でも観続けられる新しい古典だと思います。

【部門賞】
最も印象に残った男優賞
古舘寛治
セーラー服と機関銃 -卒業-』『太陽』『海よりもまだ深く』『下衆の愛 - LOWLIFE LOVE』『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』『淵に立つ』

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2016年に一番映画館で顔を観た人じゃないだろうか?物語にアクセントをつけるのに欠かせないバイプレイヤーとなってきた。
最も印象に残った女優賞
広瀬すず
ちはやふる』「上の句・下の句」『四月は君の嘘』『怒り』

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彼女が少女から大人の女性へと変わっていく一瞬を映像に残せただけでも2016年には意味があった。今年の彼女は来年にはいないのだ。
最優秀予告編賞
『スーサイド・スクワット』◯


こんな感じの作品だったら……。次点はちはやふる』「上の句」でした。


最優秀エンドロール賞
『この世界の片隅に』


エンドロールでこんなに泣ける映画は初めてだった。ぜひとも席を立ちませぬように。
次点は『ゴースト・バスターズ』


最も映画館が多幸感に満ちていたで賞
らば あぶない刑事』◯
1年に1本も映画を観ないようなおじさんやおばさんが「あぶ刑事」「あぶ刑事」と言いながら劇場に入っていく姿は本当に幸せな光景だったのです。

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最優秀サウンドトラック賞
『シング・ストリート 未来へのうた』


特別賞-キャリー・フィッシャーの思い出に-
ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー』

【ワースト3】
第3位 『X-MEN: アポカリプス』◯

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第2位 『64 ロクヨン』前編・後編◯

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第1位 『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』◯

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2017年もドキドキワクワクする映画と出会えることを強く強く願うのです。

トムさんはつらいよ

『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』(監督:エドワード・ズウィック / アメリカ 118分)

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【あらすじ】
元アメリカ軍のエリート秘密捜査官ジャック・リーチャーは、現在はたったひとりで街から街へと放浪の旅を続けている。ある日、ケンカ騒ぎの末に保安官に連行されそうになったリーチャーは、この騒動が何者かによって仕組まれたものだと気づく。元同僚のターナー少佐に会うため軍を訪れると、ターナーはスパイ容疑をかけられ逮捕されていた。ターナーを救い出したリーチャーは、軍内部に不審な動きがあることを知り、真相を探り出そうとするが……。(映画.comより)

リー・チャイルド原作の小説「ジャック・リーチャー」シリーズをトム・クルーズ主演で実写映画化した『アウトロー』(監督:クリストファー・マッカリー 2013)の続編。とにかくこの『アウトロー』って作品が大好きなんですよ!カット割りでアクションを見せるんじゃなくて、きっちりと闘っているところを描いてくれるところとか、地味だけど地に足がついているような雰囲気とか、夜のシーンの素晴らしさとか、挙げていけばキリが無いのです。主役であるジャック・リーチャーが醸し出す不思議な「コミュニケーションの不能感満々のムード」も大好物なのです。

だからすっごく楽しみにしていたんだけど、監督がエドワード・ズウィックに代わって「どうかな〜?」と一抹の心配をしていたんです。だって彼の作品を思い返してみると、あんまり印象が残ってない。良くも悪くも「普通の」作品て感じがするのです。『ラスト サムライ』とか……。

で、この『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』ですが、やっぱり「普通の」アクション映画になっていたのは、どんなにこのシリーズが好きな人だって否定は出来ないのです。ストーリーだって、すげーありがちな疑似家族ロードムービーだし。

でもですね!しかしですね‼︎ 僕はこの映画が嫌いになれない。トム・クルーズ演じるジャック・リーチャーが可愛いのです。人と話す時の距離が妙に近いリーチャー、女にはめっぽう弱いリーチャー、「あなたの娘です」と言われて目が泳ぐリーチャー、ちょっとしたドジを踏んで泡を喰らうリーチャー…etc。全てが可愛い。「可愛い」は最強なんですよ(©️みくりさん)。

トム・クルーズさんもですね、この人の名前を見ると半笑いになる人もいると思うんですよ。でもトムさんは、ホントに見事な役者さんなんです。この作品でも心情を説明するようなセリフはほとんど無くて、全てを表情のニュアンスだけで表現している。世間が思ってる以上に演技派なんです。もう一度言いますホントに見事です。

ラストで親指を立て、ヒッチハイクして去って行くリーチャー。このシーンは良かったですね〜。この時、僕の頭の中で流れていた音楽はコレ↓です。

「何を言ってるんだ?コイツは!」と思うかもしれないけど、この映画を観た人ならきっと賛同してくれるはずです。トム・クルーズがこんなにもフーテンが似合うとは思わなかった。「フーテンのトムさん」ですよ。この感じで3作目以降もお願いします。ただ監督はクリストファー・マッカリーさんに戻してもらえると、大変ありがたいのですが……。

思い出せば、かけがえのない日々

『エブリバディ ウォンツ サム‼︎ 世界は僕らの手の中に』(監督:リチャード・リンクレイター / アメリカ 115分)

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【あらすじ】
野球推薦で入学することになった新入生のジェイク(ブレイク・ジェナー)は期待と不安を抱き、大人への一歩を不器用に踏み出そうとしていた。そう、今日は野球部の入寮の日だ。お気に入りのレコードを抱え、ジェイクが野球部の寮に着くと、4年生のマクレイノルズ(タイラー・ホークリン)とルームメイトのローパー(ライアン・グスマン)から、好意的とはいえない歓迎を受ける。高校時代、イケイケのスター選手だったジェイクに対する先輩方の洗礼だった。しかも寮生活をしている先輩方は野球エリートとは思えない風変わりな奴ばかり……。(公式サイトより)

前作『6歳のボクが、大人になるまで。』(2014)では少年の成長とその家族の物語を、実際に12年間の歳月を費やして撮影したリチャード・リンクレイター監督の新作。今度は大学入学直前の3日間を描く。

とても眩しいキラキラした青春映画でありました。登場人物がとても多いのに、それぞれが個性的に描き分けられていて、リンクレイター監督らしい、とても丁寧な作品。

アメリカの青春映画では卒業までの数日間やプロムまでの様子を描いたものは多い。でもこの作品は大学入学を3日後に控えた青年の話です。この設定は新しいね。しかも主人公たちは「ジョックス」、つまりイケてるヤツらなわけですよ。これも今まであまり観たことがない。彼らは野球部の選手で大学のスターだ。すぐに友達ができ、連夜のパーティーがあって、さらに恋人まで作ってしまう。こんな奴らが実際に側にいたら、速攻で大っっっキライになるけど、映画として観た時、彼らの立ち位置が作品世界をより輝くものにしてくれる。車で女の子をナンパしに行く時、カーステレオから流れる‘Rapper's Delight’をみんなでラップするシーンの多幸感ったら、この上ないのだ。

リチャード・リンクレイター監督は、一瞬を切り取るのが本当に上手い。それは20年間にわたって撮り続けている『ビフォア』シリーズでも、ひとりの少年が6歳から18歳になる12年間を実際に12年間かけて撮った『6歳のボクが、大人になるまで。』でも、そしてたった3日間の話である今作でも変わることがない。それは何事も起こらない日常だけど、そこに生きている者にとってはかけがえのない何かなのだということを鮮明にする。

劇中ではTHE KNACKの‘My Sharona’から始まり、BlondieやCHIC、Van Halenなどの1980年に世界中で流れていた音楽が、これでもか!って感じで聴こえてくる。そしてふとした拍子に訪れる静寂。この緩急が心地よいのです。

僕の大学生活はこの映画みたいな感じじゃなかったけど、それでも何か懐かしさを感じる。それがこの映画の魅力だと思うのです。

Rock’n Roll is a risk. You risk being ridiculed!

『シング・ストリート 未来へのうた』(監督:ジョン・カーニー / アイルランド 106分)

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【あらすじ】
大不況にあえぐ85年のアイルランド、ダブリン。14歳の少年コナーは、父親が失業したために荒れた公立校に転校させられてしまう。さらに家では両親のケンカが絶えず、家庭は崩壊の危機に陥っていた。最悪な日々を送るコナーにとって唯一の楽しみは、音楽マニアの兄と一緒に隣国ロンドンのミュージックビデオをテレビで見ること。そんなある日、街で見かけた少女ラフィナの大人びた魅力に心を奪われたコナーは、自分のバンドのPVに出演しないかとラフィナを誘ってしまう。慌ててバンドを結成したコナーは、ロンドンの音楽シーンを驚かせるPVを作るべく猛特訓を開始するが……。(映画.comより)

ONCE ダブリンの街角で』(2007)、『はじまりのうた』(2013)に続くジョン・カーニー監督の新作。『はじまりのうた』は僕の生涯ベスト10に入る作品だったので、期待値を目いっぱい上げて映画館に行ったのです。あまりにもツボすぎて、ドハマリしてしまいました!

この作品は監督のジョン・カーニーの伝記的な話なんだけど、ジョン・カーニーさんや主人公は僕とほぼ同世代。主人公が1985年に15歳だから、僕は1歳上の16でしたね〜。今でこそ昔からザ・バンドとかビーチ・ボーイズとかフォーシーズンズetc…とかを聴いてたような顔をしてるけど、始まりはデュラン・デュランだったりする訳です。当時はちょうどMTVとかが流行りだした頃で、映画の中でも主人公の兄弟がデュラン・デュランRio」がかかるとテレビの前に飛んでくるというシーンがあるのですが、僕もまさにあんな感じだったよなぁ〜と記憶が蘇ってきたりして、「あ〜これは僕の話だ」ってなってしまったのでありますよ。

ONCE ダブリンの街角で』と『はじまりのうた』では主人公がちゃんとスキルのあるミュージシャンだったんだけど、『シング・ストリート』では主人公たちは全員がティーンエイジャーでほぼゼロからバンドを始める。この設定がとても良い。アマチュアであるが故に初期衝動から音楽へと向かう喜びがとらえられている。彼らがバンドとして音を出す瞬間、作品全体が瑞々しく、新鮮さに満ちたものとしてスクリーンに現れてくる。こういうシーンを描かせたらジョン・カーニーという監督は本当に上手い。『はじまりのうた』では、グレタ(キーラ・ナイトレイ)がライブハウスで弾き語りで歌い出すと、たまたまそこに居合わせた落ちぶれたプロデューサーのダンマーク・ラファロ)には様々な楽器が重なって聴こえる(見える)。


『シング・ストリート』では「UP」という曲を作る時、最初は主人公のコナーといろんな楽器が弾けるエイモンの二人で作り始めるんだけど、カメラが動いていくと、「ここでキーボードを入れたらいいね」ってところでキーボードの黒人の男の子がいたりして、時間もいつの間にか夜から昼に変わっていてバンドの演奏になっている。音がだんだんと分厚くなっていく高揚感がたまらなく心地よいのです。

コナーが新しいミュージシャンを知ると、すぐそれ風の曲を作ったり、ファッションを真似る展開も最高ですよ。だって10代ってそういうものでしょ!そもそもバンドの最初のオリジナル曲「The Riddle of the Model(モデルの謎)」はモロにデュラン・デュランというかニュー・ロマンティック・ブームの影響を受けてるしね。MVも「初心者が頑張って作ったみたいだけど、センスもあって面白い」というバランスが上手い!と思っちゃいますよ。

「Drive It Like You Stole It」はこの映画の中でいちばん好きな曲。これだってホール・アンド・オーツの「Maneater」を聴いて、すぐに「Maneater」風のビートとベースで曲を作ってる。この軽いところが微笑ましい。

このシーンは、コナーの思い描く理想と現実のギャップがハッキリと示されるシーンで、この作品のクライマックスのひとつ。音楽が流れている間は世界は調和に満ちているんだけど、音楽が終わると同時に、主人公は現実へと引き戻されてしまう。この理想と現実の乖離というモチーフは、この作品の底を一貫して流れているもので、それこそラストシーンも含めて、ただの前途洋々たるハッピーエンド……なのか?っていうところに落とし込んでいるあたりが、ジョン・カーニーは絶妙だな!って思うのです。

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バンドのメンバーを演じているのは演技初経験の人が多かったり、有名な役者さんは一人も出ていない。そんなキャスティングの中でも特に印象に残ったのはコナーのお兄さん役のジャック・レイナーさんでしたよ。彼がお母さんの背中を見つめて語るシーンとか、「どんなことでも天職さ」と言うシーンは本当に良かったですね。お兄ちゃんはコナーの全てを肯定してロンドンへ送り出してくれる。時代は違うけど同じアイルランドを舞台にした『ブルックリン』でもお姉さんはありったけの愛情を注いで妹をニュー・ヨークに送り出す。末っ子ってのは自由なものだけど、それを支えてくれる人がいるんですよね〜。僕だって'80UKロックを聴くようになったのは、姉弟のように育った従姉妹に付き合ってMTVを観てたからだったことを思い出したりして、しみじみしちゃいましたよ。

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ナイーブな少年が成長する物語であり、社会的に不遇な立場にある少年少女たちがポジティブにあがく話。ジョン・カーニー監督はそういうストーリーを音楽のプラスの面を信じて、積極的なものとして描いていく。彼は音楽を両手で持つ人だなぁ〜と思うのです。

間違いなく『シング・ストリート』は音楽を題材にした青春映画の新しい傑作として記憶される作品です。登場人物たちの将来は必ずしも明るいばかりのものではないかもしれない。でもかってそうであった者として、僕は彼らを全力で肯定したい。

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この素晴らしき世界

ファインディング・ドリー(監督:アンドリュー・スタントン / アメリカ 97分)

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【あらすじ】
カクレクマノミのマーリンが、ナンヨウハギのドリーと共に愛する息子のニモを人間の世界から救出した冒険から1年。3匹は平穏な日々を過ごしていたが、ある晩、ドリーは忘れていた両親との思い出を夢に見る。昔のことはおろか、ついさっき起きたことも忘れてしまう忘れん坊のドリーだが、この夢をきっかけに、忘れてしまったはずの両親を探すことを決意。「カリフォルニア州モロ・ベイの宝石」という唯一の手がかりから、人間たちが海の生物を保護している施設・海洋生物研究所に、両親やドリーの出生の秘密があるとを突き止めるが……。(映画.comより)

「いいところもあるけど、受け付けない部分もあった」映画でしたよ。とすごく普通の感想を書いてますけど……。まあピクサー作品だからクオリティは確かだし、ドリーの両親がドリーを思う気持ちにはしっかりと涙したのです。でもなんだかなぁ〜ってなったのも事実ではあるのです。

登場人物(いや、登場魚か⁉︎)は当然のことだけど、水の無いところは移動できない訳ですよ。たった数メートル先なのにどうにもならない。さてどうする?ってところが前作『ファインディング・ニモ』では面白かったんだけど、本作ではご都合主義の連発にしか見えなかった。タコのハンクの万能ぶりとか、魚に操られて何処にでも行ってくれる鳥のベッキーとかね。ラストのアクションだって「どうしてそうなるの?」という理屈の説明が雑だから、あんまりハラハラしなかった。

あと水族館に行くことを強く望むハンクをドリーが「狭い研究所ではなく外の世界のほうが幸せ」だとずっと説得するんだけど、僕は「別にそういう生き方も『アリ』なんじゃないの?」と思っちゃったんです。「そういう幸せもあるよね」っていう描写があると良かったなぁ〜。

不満なところばかり書いてきたけど、CGのクオリティは素晴らしいし、ドリーの家族の描写はとっても感動的だった!ドリーが言っていた「人生でいちばん素敵なことは、偶然起こるのよ」ってセリフもウンウンとうなづくばかりです。

また「障がいを持つキャラクターを主人公にする」というコンセプトは良いと思いましたね。本作のキャラクターは、ほとんどが何かしらの障がいを持っています。ドリーは「短期記憶障がい(short-term memory loss)」で少し前のことも忘れてしまう。タコのハンクは足が7本しかない。ジンベイザメのデスティニーは近視だし、シロイルカのベイリーは頭をぶつけた影響でエコロケーションが使えなくなった(と思い込んでいる)。そもそもニモも生まれつき片方のヒレが小さいせいで上手く泳げないんでしたね。特にハンクがどうして7本足になったのかという理由を描かないのは、ウマイ!と思っちゃいましたね。何でもかんでも説明すれば良いってもんじゃないのです。

彼らの「障がい」を「個性」として描いていくのはいいなぁ〜と思う。でもその描き方がちょっとストレートだったかな?同じディズニー・ピクサー作品である『ズートピア』では、「偏見を持つことの愚かさ」を表には出さず、極上のエンターテイメントとして描いていたのと比べるとね。でもピクサーの制作陣がそんなことに気づかないとは思えないんです。今、世界を見渡せば、アメリカやヨーロッパでは「差別したっていいじゃないか!」と大きな声で言い出す奴が増えたり(あまつさえ大統領候補になったり)、日本では「社会のために障がい者はいなくなるべきなんだ」と言って殺人を犯す奴が現れる世の中です。もうオブラートに包んでいる場合じゃないんだという彼らの声が聞こえてくるような気もするのです(考えすぎかも?ですけどね)。

クライマックスのシーンで流れるのは、ルイ・アームストロングの‘What a Wonderful World’。こんな世界になると良いですなぁ〜。

エンドロールは‘Unfogettable’です。日本語版では八代亜紀さんが歌ってます!

地獄はそこにある

『葛城事件』(監督:赤堀雅秋 / 日本 120分)

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【あらすじ】
親が始めた金物屋を継いだ葛城清は、美しい妻・伸子と共に2人の息子を育て、念願のマイホームも建てて理想の家庭を築き上げたはずだった。しかし、清の強い思いは知らず知らずのうちに家族を抑圧し、支配するようになっていた。長男の保は従順だが対人関係に悩み、会社をリストラされたことも言い出せない。そして、アルバイトが長続きしないことを清に責められ、理不尽な思いを募らせてきた次男の稔は、ある日突然、8人を殺傷する無差別殺人事件を起こす。死刑判決を受けた稔は、死刑制度反対を訴える女・星野が稔と獄中結婚することになるが……。(映画.comより)

物語はどこにでもあるような一軒家を映し出して始まります。でも、どこかおかしい。壁には「人殺し」、「死ね」、「出てけ」、「呪 呪」、「死刑」などと誹謗中傷の文字が落書きされている。そして「バラが咲いた」の歌を口ずさみながら落書きを消す一人の男。劇作家でもある赤堀雅秋監督が自身の舞台を実写映画化した作品。舞台は「附属池田小事件」をベースにした「サイコパスの身内を持ってしまった家族の悲劇」を描いたものだったそうなんですが、映画では「土浦連続殺傷事件」や「秋葉原通り魔事件」、「池袋通り魔殺人事件」などの事件を参考にして、さらに「黒子のバスケ」脅迫事件の要素をプラスして、より普遍性がある作品になっています。僕はこの作品を観た直後に相模原の事件を知り、本当に真っ暗な気分になりました。

誰だって家族のことを無条件に全て好きなわけじゃない。というより、ずーっと家族で暮らしていると、親や兄弟の「嫌な部分」も知ってしまうものだと思うんですよ。でも僕たちは友達を作ったり、恋愛したり、結婚したりして、外の世界と接点を持ちながら、折り合いをつけて生きていくんです。でもその「嫌な部分」が何かのきっかけで昇華されずにいたら……。そこには地獄へ続く悪循環が待っている。そしてその「地獄への悪循環は決して他人事じゃないんだ」ってことを、この映画は丁寧に丁寧に描いていく。

物語は次男である稔が無差別連続殺傷事件を起こした後の葛城家とその周辺を描きながら、「事件が起きる前」を挟み込み、この事件がなぜ起こったのか?を僕たちに見せながら進んでいきます。その過程がホントによくある光景の積み重ねだからキツイんです。劇中にも描かれますけど、最初はそりゃ幸せそうな家族なんですよ。それが南果歩さんが演じる葛城家のお母さんが吐き出すように言うなんで、ここまで来ちゃったんだろう」っていう状況になっちゃう。でもよく考えてみると、その幸せそうなシーンの中にも歪みのようなものがほんの少しだけど描かれている。

その歪みを大きくさせているのは、間違いなく三浦友和さんが演じている父親(三浦さんはとんでもなく素晴らしいのです。彼のベストアクトなんじゃないかな?)なのです。「単に親が営んでいた金物屋を継いだけの自分」にコンプレックスを持っていて、それがゆえに虚勢を張ってしまい、家族に高圧的な態度をとる。家族の方もそれを受け入れてしまい、当たり前のこととしてしまう。それは観客も同じで、だから長男である保が「金物屋で父がいつもいる場所に座っ時、“父の世界の狭さ”を知ってしまう」シーンには、僕たちもハッとしてしまうのです。

視線の転換ということで言うならば、次男と彼と獄中結婚する女(田中麗奈)が最後の接見室のシーンで、田中麗奈が他愛もない話を始めると次男が虚を突かれる。その瞬間、ずっと田中麗奈側から撮っていたカメラが稔の方に移るわけですよ。見る側と見られる側が逆転するのです。その時、次男は初めて感情のようなものを見せる。彼は少しは成長したんじゃないか?って解釈もあり得ると思う。

最近、社会で起こった様々な事件を見ると、「◯◯らしさ」から解放された方が人は楽に生きられるんじゃないか?って割と真剣に考えています。この映画で言えば「父親らしさ」「男らしさ」のようなものです。とっくの昔にそういう強い父親像、父権的な家族像なんていうのは成り立たない時代になっているのに、それを受け入れることが出来ない。そこに悲劇がある。でも「◯◯らしさ」を捨てるってことは、別の言い方をするなら「理想を捨てる」ってことだからなぁ〜と迷路に入り込んだりもしてしまうのです。

まあ、ホントに嫌ーな場面ばかりの映画だけど、誤解を恐れずに言うなら、「面白い」作品です。三浦友和さん以外の役者陣の演技も素晴らしい。豊作と言われている今年の日本映画の中でも、特筆されるべき一本だと思います。公開が終わったところが多いけど、近くの映画館でやっていたら、ぜひ観てください。